新型インフルエンザ・クライシス



新型インフルエンザ・クライシス
外岡 立人著
岩波ブックレット 2006



 「ブックレット」には、旬がある。
 新聞にも旬があり、それは半日から一日のスパンで切り替わるシビアさを持っているが、その反面では縮刷版(近年ではweb版の新聞の過去ログ)のように時を経てこそ活用出来る存在でもある。
 ところが、「ブックレット」の場合、発表されてから一定の時期にその内容に触れないと、旬を逃してしまうばかりか発表されたこと自体が忘れ去られる危険性を持っている。或いは、このくにのひとびとが、我が身に降りかかった危険や事件を無意識のうちに忘却の彼方へと葬ってしまうがゆえに、「ブックレット」は一過性のものとなる危うさを持っているのかもしれない。尤も、「ブックレット」の取り上げる内容は多岐に亘るから、「ブックレットは一過性」と決めつけるのはただの偏見であり、「ブックレットは一過性」と断言することは危険である。中には、時を経て輝き続け、その形式が持つ気軽さから繰り返し読み続けようとさせる魅力を放つものも少なからず存在する。「報道」が煽りたて購買せざるを得ないかの如く脅迫され、購入してみたもののそのページ数とは裏腹に内容が希薄ですぐに枕本と化し、また繰り返して読みたいと思わせてくれないような、そんな軽薄なベストセラーに比べ(ること自体が失礼ではあるけれど)、読めば読むほどに関心を高めさせてくれる重厚な「ブックレット」のほうが如何に面白いことか。

 閑話休題。「ブックレット」に旬を感じさせる理由の一つには、前述の通りこのくにのひとびとが高い関心を持った危険・事件が題材となるから、という点が考えられよう。全く存在を知らず関心の持ちようもなかった事柄が、ある日を境に身近な危険となり、恐怖におののき続ける日々を送り、やがて忘れ去る。・・・そんなことを、このくにでは繰り返している。ただ、遠ざかっていったように思う事柄の中には、再び襲いかかる可能性を持つものも、幾つかある。ひょっとすればそれはただの杞憂に過ぎず、ぼんやりとした不安は考え過ぎの所産なのかもしれないけれど、危うさを払拭するための根拠に危うさを覚えるものも、少なからず存在する。
 今の私が恐れを感じているものの一つは、新型インフルエンザである。

 新たなインフルエンザの話を初めて耳にしたのは、いつのことだったろうか。
 今思えばあまりにも稚拙なのだけれど、病にかかり周囲から「風邪?」と尋ねられた際に「鳥(インフルエンザ)」とか「SARS」とかいう回答を、数年前までの私は行っていた。実際に世界の何処かで亡くなっているひとがいるというのに、死に至る感染症をささやかな笑いの種としていたのである。
 そこには、驕りがあった。
 私自身が感染する前にそれらは鎮圧されるだろう、という驕りが。
 「報道」も一時期話題にし、煽りたて、やがて話題にしなくなった。まるで病が根絶されたかのように。
 しかし、実際には新型インフルエンザの前に、ひとびとはなす術をそれほど多く持っている訳ではない。今も、世界の何処かで新型インフルエンザに感染して命を落としているひとがいる。それが、ひとからひとへと感染する状態になっていないだけで。

 季節が移ろい風邪やインフルエンザへの対処を考える中で、近頃再び新型インフルエンザのことを考えるようになった。考える題材として手に入れたのが、外岡立人「新型インフルエンザ・クライシス」(岩浪ブックレット 2006)である。当初、2年前の著作であることから購入するかどうか迷った。2年前の著述が、2年後の今でも旬を感じさせるかどうか、考えた。実際に目を通して、旬を考察した我が身を、恥じた。
 内容は、新型インフルエンザのみならず、過去に発生・流行したインフルエンザのことも詳細に記されている。例えば、大正7(1918)年に「スペイン風邪」と呼ばれるH1N1インフルエンザがこのくにで流行し、38万~45万人が死亡したときの様子や死因が記されているが、それを過去ログとして処理してしまうのは危うい。ひとからひとへの感染を始めてしまったインフルエンザに対する特効薬は、この世に未だ存在しないのである。また、インフルエンザの基礎知識(分類・感染様式)やH5N1新型インフルエンザのこれまでの発生状況、世界やこのくにでの対策なども記されている。
 読んで深刻に感じたのは、このくにでの対策が一向に進んでいない点だ。
 このサイトでも最近取り上げているが、新型インフルエンザ発生への訓練が各地で行われるようになっている。が、そこに「対岸の火事」への備えを他人事のように行う雰囲気を、どうしても私は感じてしまう。
 また、新型インフルエンザ対策を率先して行おうとする政府・省庁の姿が、どうしても見えてこない。
 そのあたりについても、2年前の「ブックレット」は考察されている。

 今も旬を感じさせる、2年前のブックレット。
 内容が輝きを失わないのは内容の素晴らしさもあるだろうが、事態が2年前から何も変わっていない、そのためでもあるのかもしれない。

 以上、読み難くてすみませぬ(汗

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Author: 番記者O on 2008年11月29日
Category: book review
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2 responses to “新型インフルエンザ・クライシス”
  1. 奈菜 より:

    あんさんかと思った。(笑

  2. 番記者O より:

    記すときはTeraPadで一気に。
    後で読んでみたら読み難いことこの上なしでした(汗

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