駅で誕生した新しい命は、すくすくと育った-。1年前、名古屋市中区の市営地下鉄栄駅で突然破水し、駅員らの助けによって緊急出産した久野有紀さん(25)=愛知県小牧市本庄=の長女茜ちゃんが29日、1歳の誕生日を迎えた。
前日に駅長室を訪れた久野さんは、茜ちゃんを“取り上げた”駅員らに娘の成長を報告。「親子が今こうしていられるのは、駅員さんや通りがかった方のおかげです」と深々と頭を下げた。出産に立ち会った同駅の女性助役、黒田笑加(えみか)さん(35)は「本当に良かったね。こんなに大きくなって」と目を潤ませた。
昨年7月29日昼。当時、妊娠9カ月だった久野さんは地下鉄を利用し、栄駅東改札口で「おなかが痛い」と駅員に訴えた。連絡を受けた黒田さんと、通行人の女性が介抱し駅長室に連れて行こうとした。しかし、途中の階段踊り場で久野さんは動けなくなった。破水し、陣痛が始まったのだ。約5分後、救急隊員が到着したが、踊り場で横になったまま出産した。
茜ちゃんは、出生時の体重がわずか1914グラム。産声はなく仮死状態だったが、救急隊員の適切な処置で蘇生(そせい)した。
黒田さんと女性は、初産だった久野さんの手を強く握り締め、「大丈夫だから頑張ろうね」「落ち着いて」と励まし続けた。他の駅員は毛布とタオルを用意し、踊り場に人が近づかないよう注意を払った。女性は名前や連絡先を言わずに立ち去ったため、久野さんは「もう1度会い、お礼を言いたい」と行方を捜している。
久野さんは当初、駅での出産を恥じ、落ち込んでいた。病院で普通に産み、夫の立ち会いを予定していたから。世間体を考え、隠そうとも思った。でも、周囲の人たちから「そういう経験をできる人はいない」と勇気づけられるうちに、プラスに考えられるようになった。
茜ちゃんは今、体重6・8キロ。つかまり立ちができるようになった。久野さんは、茜ちゃんを抱きながら、ほほ笑んだ。「娘に将来、駅で産まれたことを自信を持って話したい。多くの人がいたから、無事だったんだと。それに、これから産む人たちが私の体験を知り、『出産って怖くない』って思ってくれたらいいな」
うーん。
